Masuk午後四時ごろ。
私は保育園に息子の俊太とさくらちゃんのお迎えに行く。 一斉にお迎えが来るから、この時間、保育園には人が多い。 まず、俊太をお迎えしてから、さくらちゃんを呼んでもらう。 すると俊太は不思議そうに言った。 「さくらちゃん?」 「うん。ママのね、お仕事でお迎えしておうちに送ることになってるの」 「ふーん」 と、あまり興味がなさそうに俊太が言う。 朝、むずがっていたのが嘘のように、大人しい。 そこにさくらちゃんが上の階から下りてきて、私に手を振った。 でも私の隣に立つ俊太に気が付いて、不思議そうな顔になる。 「えーと……えーと……しゅんたくんだ!」 そうさくらちゃんが言うと、俊太はもじもじと私の後ろに隠れてしまう。 この保育園は各学年一クラスしかないから、面識があるんだろうな。 私は玄関にしゃがみ込み、さくらちゃんに向かって言った。 「俊太は私の息子なの。それでね、しばらく俊太とさくらちゃん、一緒に保育園に来て、一緒に帰ることになったんだけど」 「そうなの?」 「え?」 さくらちゃんと俊太が交互に言う。 ふたりとも戸惑っている感じで私を見上げている。 それはそうよね。面識はあっても、お互い大して知らないだろうし。 「そうなの。さくらちゃんのお迎えに来ていた人がね、大きなケガをして入院していて。それでお迎えに来られなくなっちゃったの」 言いながら私はふたりの様子をうかがう。 さくらちゃんは四歳だし、そもそも家政婦さんが入院していることを知っているからわかっていそうだけれど、俊太は違う。 二歳だし、まだよくわからないだろうな。 案の定、 「なんで?」 と言い出す。 入院してる、といってもよくわからないかな。うち帰ったらまた説明しないとな。 「さくらちゃんのおうちの人の代わりにママがさくらちゃんのお迎えするの」 「ママは僕のママだよ?」 そう不安な顔をする俊太と、同じく不安な顔を見せるさくらちゃんを見て心が痛くなる。 難しいよね。 大人の都合は俊太には難しいだろうし。さくらちゃんも不安よね。 私はふたりの頭にそっと手を置いて、 「帰ろう。さくらちゃんのパパ、今日はおうちでお仕事してるって言っていたから」 「うん」 ふたりとも不安な顔のまま頷き、私はふたりの手をぎゅっと握りしめて保育園を後にした。 帰り道、ふたりとも言葉が少なかった。 なんだかふたりとも私の様子をうかがっているような感じがする。 子供なりに空気、読んでいるのかな。 そのことに心が痛くなってくる。 「今日は何があったの?」 そう私が言うと、さくらちゃんが我先に、という感じで喋りはじめた。 「運動会の練習したの!」 「そっかー。今月の終わりだもんね、運動会」 そう私が答えると、さくらちゃんは大きく頷く。 「うん! ダンスとね、玉入れするの!」 目をキラキラさせて桜ちゃんが言った。 私は俊太に目を向けて尋ねた。 「ねえ俊太、今日は何したの?」 すると俊太は下を向いて、首を横に振ってしまう。 これは……緊張なのか、それとも嫌だっていうことなのか。こういう状況は初めてだから私も戸惑ってしまう。 その代わりに、さくらちゃんが話しかけてくる。 「えーとね、しゅんたくんもね、やってるよ! 運動会の練習!」 「そっかー。運動会楽しみだね」 そう私が言うと、さくらちゃんは、黙り込んでしまう。 これはかなり複雑な状況かも知れない。 大丈夫かな。 送り迎えだけだし、と思ったけれど、私、自分の子供とのことまで考えが回っていなかったなと、反省してしまう。 心の中にもやもやを抱えながら東雲さんのマンションに向かって歩いていると、俊太が声を上げた。 「パパ?」 「え?」 驚いて私は視線を巡らせる。 車道の向こう。夫の郁人によく似た人がいた。とても若い女性と一緒に腕を組んで歩いているように見える。 ってなんで? 郁人が行っているジムとは方向違うのに。 ふたりはチェーンのカフェに入っていくようだった。 東雲さんのマンションがある方角は、私たちは普段いかない方向だ。 なんで郁人が女性と歩いてるの? あの人誰? すごく若く見えたけど……え? 「ママ?」 俊太の声にハッとして、私は首を横に振る。 そして自分に言い聞かせるように言った。 「あれ、パパじゃないよ。よく似た違う人」 そう言いながら私はひきつった笑いを浮かべる。 俊太は首を傾げて、 「そうなの?」 というけれど、私は大きく頷いて、 「そうそう。パパ、ジムに行ってるからね」 と答える。 俊太は納得してないようだけど、頷いて私を見上げて言った。 「おなかすいた」 「そうだね」 「はいはい! さくらもおなかすいた!」 さくらちゃんも手を上げてアピールするので、私は笑って頷いた。 マンションの部屋には、東雲さんがいてさくらちゃんを出迎える。 「あぁ、おかえりなさい」 「ただいま」 すん、という感じでさくらちゃんが言い、東雲さんの横をすり抜けて中に入っていく。そのあとに水が流れる音が聞こえるから、手を洗っているんだろうな。 えらいな、ちゃんと手洗いうがいできるんだな。 東雲さんは私と、私の横に立つ俊太に目を向けたあと、申し訳なさそうに頭を下げた。 「すみません」 「いいえ。あの、帰りにさくらちゃん、お腹すいたって言っていて。おやつ、あげてください」 「はい。えーと、こちらは坂本さんのお子さん、ですか?」 遠慮がちに言われ、私は頷く。 「はい、あの、俊太、です。今二歳で、さくらちゃんと同じ保育園だったから一緒にお迎えになって」 「あぁ、そういう事なんですか。えーと、ちょっと待っていてください」 そう言ったかと思うと、東雲さんは背中を向けて奥へと走っていく。 「なんだろう……」 不思議に思っていると、すぐに戻ってきて、小さなレジ袋を差し出してくる。 「あの、おやつです。よろしければ」 半透明の袋から、よく知っている子供向けのおやつのパッケージが透けて見える。 それを見た俊太は、 「おやつ!」 と、声を上げた。 私は袋を受け取り、 「わざわざすみません」 と、頭を下げる。 すると東雲さんは笑顔で首を横に振り、 「いいえ、あの、突然なのにありがとうございました」 と言いながら、頭を下げた。 「坂本さん、明日もよろしくお願いします」 「はい、よろしくお願いします」 互いに頭を下げ合い、私は東雲さんのマンションを後にした。ソファーの前のテーブルに置かれるワイングラス。 白ワイン、かな。 それにクラッカーやキューブのチーズが、新幹線の柄の紙皿に並んでいる。 紙皿がちょっと微笑ましい。「洗い物、減らしたいので」 と言い、八尋さんは私の隣に座る。ほんのわずか、隙間を開けて。 八尋さん、今日もいい匂いがする。 いつもと違う匂いな気がするけど、何でだろう。 この匂い、あれ、もしかして。「あれ、入浴剤、ですか?」 自信なく言うと、八尋さんはうんうん、と頷く。「そうですそうです。ほら、おもちゃがでてくる入浴剤、あるじゃないですか」「あぁ、バスボムですね。なんかいつもと違う匂いがするなと思って」 すると八尋さんは驚いた顔を向けてくる。「よくわかりましたね。自分だと匂い、よくわかんないですけど」 そう言いながら、八尋さんは自分の手首を顔に近づける。 その姿を見ながら私は笑い、「あはは、自分の匂いってよくわかんないですよねー」 と告げる。 私はどんな匂いがするんだろう、って思ったけれど、俊太とお風呂、入ったあとだから石けんの匂いがするだけだよね。「子ども、バスボム好きですよねー」「そうですね。うち、出た人形が玄関に飾ってます。出たら満足なんですよねー」 そういえば、ここの玄関、可愛いキャラクターの小さい人形が飾られていたっけ。 あれ、バスボムのだったんだ。 八尋さんが、グラスを手に取り言った。「最近、ヘアゴムの飾りが出てくるバスボムもあるんですよねー」「え、そんなのあるんですか?」 どういうことだろうと思って、私はスマホで調べる。 ゴムは別でついていて、バスボムの中から出てきた飾りを乾かして、ヘアゴムにつけるらしい。 知らないうちに、すごいのでてた。よく考えるなぁ。「知らなかった」「あはは、そうですよね。俺もびっくりしましたけど」 そして彼はこちらを向いて目を細めて笑い、グラスを掲げた。「とりあえず、飲みましょう」「は、はい」 私はグラスを慌てて手に取って、八尋さんの方を向く。 うーん、八尋さんの顔見てると本当にドキドキするなぁ。 グラスを傾けて、「乾杯」 っと言いあって、私たちはグラスに口をつけた。 久しぶりにお酒飲むなぁ。 ぐい、と飲んで、クラッカーにチーズをのせて口にする。「んー、美味しい」「久しぶりですね、
ピザにスープ。それにサラダにローストビーフ。 たくさんのごちそうが並ぶなか、さくらちゃんが言った。「うわぁ! すごーい!」「皆で食べよう。食べおわったらケーキね」 そう私が言うと、俊太が両手を上げた。「わーい!」 ピザをカットして、紙皿にとって。 いつも飲み物は麦茶って決めているけれど、今日は特別にジュースだ。 「クリスマス、サンタさん何くれるかなー」「新幹線とー、車とー、あとねー」 なんて俊太が数えはじめると、それを笑って八尋さんが頷く。「いいなー、たくさんもらえるかなー」 すると俊太は大きく頷いて、手を大きく上にひろげた。「いっぱいがいい!」「そうねー、いっぱいだといいねー」 笑いながら言い、私は俊太に食べるように促す。 わきあいあいとご飯を食べて、片付けたあとはケーキの時間だ。 箱を開けて現れたのは、俊太が好きな新幹線のはやぶさが描かれたケーキだった。「はやぶさだー!」 プリントなのかな。すごくかっこよくはやぶさが描かれている。 正直、切るのがもったいない。 そのケーキに、八尋さんがろうそくを三本さして、火をつけた。「じゃあ電気消すね」 そう告げて、私はテーブルの上にある照明のリモコンを操作して、電気を落とした。 ろうそくの火が、暗闇の中でゆらゆら揺れる。「せーの」「ハッピバースデートゥーユー」 そう皆で歌う。 俊太は目をキラキラさせて、ケーキを見つめていた。 ケーキにささる三本のろうそく。それを見るとなんだか不思議な気持ちだった。 生まれて三年経ったんだ。 まだ三年? この数か月が怒涛過ぎてもっと時間が経っているみたいに思うけれど、そうでもないんだなー。 灯りをつけて、ろうそくをぬいて、ケーキを切り分ける。 楽しい時間はあっという間に過ぎていって、プレゼントを開けた俊太はぱあっと顔を明るくする。 新幹線の本に、パトロール隊のおもちゃ。 そのあと俊太はさっそく玩具で遊び、夜は絵本を読みながらベッドに入った。 本を読みながら俊太は私にいろんな話を教えてくれる。 しばらくすると満足したのか、大きな欠伸をして眠りについた。 その頭を撫でていると、眠気が襲ってくる。 八尋さんと約束があるから寝ちゃだめだ。 そう言い聞かせて私は、寝ないように薄闇の中、俊太の本を開いた。 しばらく
子供たちのお迎えは私がひとりで行った。 帰り道、「今日はー、誕生日だよねー」 と、さくらちゃんがわくわくした顔で言う。「ママ、新幹線は?」 顔を輝かせて言う俊太。「そうだねー、誕生日はちょっと違うやつかなー」 そう言って笑って誤魔化す。 だって、新幹線はクリスマスに買ったから、今回は犬のパトロール隊のおもちゃだ。 なにをあげてもよろこぶ、といいんだけどなあ。 正直このお年頃は何を欲しがるのか全然分からないんだよね。 子供たちを連れて帰り部屋に入ると、「たっだいまー」 と、声を弾ませてさくらちゃんがばたばたと廊下を走っていく。「さくらちゃん、あるこうねー」 そう声をかけると、さくらちゃんは急ブレーキをかけるように立ち止まって、こっちを振り返って下を出す。「へへへー」 なんて言って、さくらちゃんは、すり足で廊下を歩いて行った。 そんなの無視して、俊太は靴を脱ぐ。 そしてリビングに向かおうとするのを私は制した。「さきにあっちに荷物、おいてこよう」 言いながら、私は私たちが使っている部屋がある方を指差す。 すると俊太は目を大きく開いて声を上げた。「なんで?」「今日はそういう日なの」「なんで?」「先に手を洗って、うがいしようねー」「なんで?」 うん、今日はなんで攻勢がすごい。 私は内心苦笑して、それでもついてくる俊太を連れて流しに向かった。 八尋さんとこれは決めていたことだ。 俊太を今日、連れて帰ってきたらまず手を洗ってお片づけをする。 その間に、さくらちゃんたちが準備をするらしい。 荷物を片付けて準備をして、私はスマホを見た。 ちょうど八尋さんからメッセージが届いて、「準備出来た」と書いてあった。 私は俊太に手を伸ばして、「行こう」 と声をかけ、手を繋いだ。「なんで?」 と、俊太の疑問が始まる。「誕生日でしょー、今日は」「うん」 そう頷く俊太を連れて、私はリビングへと向かう。 そして、ノブに手をかけて俊太の方を見て言った。「一緒にあけようか」 すると俊太はばっと手を伸ばしてきたかと思うと、ガチャっと勢いよく扉を開いた。 するとパーン! という音と共に紙が舞う。 クラッカーだ。 音に続いてさくらちゃんたちの声がした。「お誕生日おめでとー!」 俊太はびっくりしたみたいで辺
鳴り響いたチャイムを聞いて私はさっと立ち上がってインターホンのモニターを見る。 それを見て私は思わず息をのむ。「あぁ、来た」 私がインターホンのボタンを押す前に、八尋さんがエントランスの扉を開くボタンを押した。「あ……」 私はハッとして後ろに立つ八尋さんの姿を見る。 今の人、この間見かけた女性、だよね? 八尋さんの会社の人。 胸の奥がざわざわしてしまう。 そんな私のことなんて知らない八尋さんは、ニコニコ笑って言った。「涼花さんは座って待っていてください」「え? いや、でも……」 私が家政婦だし、っていう思いと、例の女性を見たいっていう気持ちと、何ともいえないどろっとした感情が私の中にあってわけわからなくなりそうだ。 八尋さんは私を片手で制して、「大丈夫ですよ、それくらい俺が受け取るから」 と言い、バタバタとリビングを出ていく。 私は胸の前で手を握りしめ、じっと扉の方を見る。 どうしよう。気には、なるんだけどな。 ちょっと迷った後、私はゆっくりと扉に近づいてそして、その扉を開いた。 するとちょうど、扉が開く音が聞こえてくる。 玄関が見える所まで出て、ちょこっとそちらを見ると、八尋さんの背中が見えた。「ありがとう」「いいえー、それで準備はできたんですか?」 という、元気な女性の声が聞こえてくる。 ちらっとみえる頭とか見るとこの間見た人に間違いなさそうだ。 って、覗き見しているみたいでいやだな。何しているんだろう、私。 その時、ちらっとあの女性がこちらを見たような気がした。 その瞬間、にこやかに八尋さんと話をしていた女性の顔が一瞬、真顔になる。 でもすぐに笑顔になって、彼女は八尋さんの顔を見て、「それじゃあ私、帰りますね」「あぁ、うん。ありがとう、結城」 結城さん、ていうんだ。 彼女はこちらに背を向けて玄関ドアを開ける。 あ、まずい。八尋さん、戻ってきちゃう。 私は慌ててリビングの方へと戻って、さっきまで座っていた椅子へと向かう。 すっかり飲み物、冷めちゃった。 レンジで温めよう。 カップを持ってレンジに近づいたとき、扉が開く音がした。「お待たせしました。ケーキ、しまっておきますね」「あ、はい、ありがとうございます」 言いながら私はレンジにカップを入れて、スタートボタンを押す。「あとお菓
まだ二歳の俊太は、直接サンタさんからプレゼントを渡されてそのプレゼントとサンタさんを交互に見ている。 サンタさん、生で見るの初めてだもんね。 生、と言っていいのかよくわからないけれど。 サンタ役はたぶん誰かのお父さんだろう。 子供たち、ざわついているけどちゃんとお座りできてえらいなぁ。 その姿にまた、ほろり、としてしまう。 サンタさんタイムが終わってお遊戯会も終わる。荷物を抱えて私は俊太のお迎えに教室へと向かった。「ママ!」 そう声を上げて俊太が走ってくる。 「俊太」「あのね、サンタさんにもらったんだよ」 そして俊太は、手提げバッグを私に見せてくれる。 そこにはさっきもらったサンタさんからのプレゼントが入っていた。「よかったねー。うち帰ってあけようね」「うん」 ニコニコ顔になる俊太と手を繋いで、私は頭を下げて教室を後にした。 さくらちゃんは、今日はパパがお迎えだからこのまま帰ることになる。 園庭を出たとき、俊太がキョロキョロして言った。「さくらちゃんは?」「さくらちゃんは今日はパパがお迎えなんだよー」「なんで?」「さくらちゃんのパパがお迎えだからねー」 そう、答えになっている様でなっていないことを言ってしまう。 この年頃は、なんでもなんで? が多いような気がする。 さくらちゃんのパパがさくらちゃんをお迎えに行くのは当たり前なんだけど、その当たり前をどう説明したらいいのか、私にはわからない。「なんで?」 案の定、俊太は同じ質問を繰り返してくる。 こうなるとしばらく同じことの繰り返しになってしまうので、私はどう誤魔化そうかと考えた。 「お買い物して帰ろう? おやつ、何食べたい?」「おやつ食べる!」 誤魔化すにはやっぱりおやつが一番だな。 すっかりおやつに意識がいった俊太を連れて、私はスーパーへと足を向けた。 その数日後。 とうとう俊太の誕生日がやってきた。 わざわざ八尋さんは仕事を半休、とってくれて今、室内の飾りつけをしている。 その背中に、私は笑いながら声をかけた。 「こんな飾りつけしたの、初めてですよ」「そうなんですか? さくらのときはいつもこうしていて」 そう言って、彼は壁に飾りをつけていく。 ハッピーバースディの文字に、三、という数字。 星やら花やらのウォールステッカーも貼
先生の指示に従って、俊太がタンバリンを鳴らす。 その姿が可愛くって、スマホ越しにすっごい見てしまう。 合奏が終わって私はいっぱい拍手をした。 家じゃあまだイヤイヤ期で手がかかるけれど、保育園だとこうして先生の言うことを聞いて、こんな楽器の演奏までできて。 なんだかほろり、としてしまう。 ちゃんと成長しているんだなぁ、俊太。 その後の劇で、俊太はきこりの役をやっていた。 緑色のベストに緑色の帽子を被って。台詞は言えないから全部先生が言ってくれるんだけど、ちゃんとフリをしてて可愛かった。 第一部が終わって、席を入れ替わって私たちは後ろに下がる。 今度は年少さん以上のプログラムで、さくらちゃんの出番がある。 ざわざわと保護者たちが席を移動していると、八尋さんの姿を見つけた。 視線が合うと、彼は小さく頭を下げてくる。 私も会釈だけして、そそくさと視線をそらして席を移動した。 下手に見られてなんか言われても面倒だもの。 しばらくすると、第二部が始まる。 最初は年少さんの歌と合奏だ。 赤いベストを着た年少さんたちが出てきて、鍵盤ハーモニカを持っている子もいる。 その中にさくらちゃんの姿を見つけて、私は小さく手を振った。 後ろの方なのでちょっと見にくいけれど、スマホのカメラでアップにするとよく見える。 さくらちゃんは鍵盤ハーモニカをひくみたいで、ステージの前に置かれたテーブルにハーモニカを置いて、椅子に腰かけて演奏が始まるのを待っていた。 先生のピアノに合わせて挨拶をした後、子供たちが声を合わせて言った。「せーの、『さんぽ』をうたいます」 せーの、って言ってるのも可愛いくて、保護者たちから笑いが漏れる。 ジブリの歌は定番よね。 演奏が始まって、さくらちゃんも歌を歌う。サビに入る前にハーモニカの演奏が入って、さくらちゃんは一生懸命に指を動かしていた。 といっても一音を長くひいているだけだけど。すごいなぁ。 演奏は一番だけで終わって、皆が立ち上がって観客席へと頭を下げる。 そこにいっぱい拍手して、年少さんのお歌と合奏は終わった。 そのあと、年中さんと年長さんのお歌と合奏が続いて、そのあといよいよダンスの時間だ。 演目を見ると、さくらちゃんの出番はもうすぐだ。 なんか可愛い服を着て踊ると言っていたけれど、どんな服なんだろう