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4 お迎えと目撃と

Penulis: あさじなぎ
last update Tanggal publikasi: 2026-08-02 20:18:41

午後四時ごろ。

私は保育園に息子の俊太とさくらちゃんのお迎えに行く。

一斉にお迎えが来るから、この時間、保育園には人が多い。

まず、俊太をお迎えしてから、さくらちゃんを呼んでもらう。

すると俊太は不思議そうに言った。

「さくらちゃん?」

「うん。ママのね、お仕事でお迎えしておうちに送ることになってるの」

「ふーん」

と、あまり興味がなさそうに俊太が言う。

朝、むずがっていたのが嘘のように、大人しい。

そこにさくらちゃんが上の階から下りてきて、私に手を振った。

でも私の隣に立つ俊太に気が付いて、不思議そうな顔になる。

「えーと……えーと……しゅんたくんだ!」

そうさくらちゃんが言うと、俊太はもじもじと私の後ろに隠れてしまう。

この保育園は各学年一クラスしかないから、面識があるんだろうな。

私は玄関にしゃがみ込み、さくらちゃんに向かって言った。

「俊太は私の息子なの。それでね、しばらく俊太とさくらちゃん、一緒に保育園に来て、一緒に帰ることになったんだけど」

「そうなの?」

「え?」

さくらちゃんと俊太が交互に言う。

ふたりとも戸惑っている感じで私を見上げている。

それはそうよね。面識はあっても、お互い大して知らないだろうし。

「そうなの。さくらちゃんのお迎えに来ていた人がね、大きなケガをして入院していて。それでお迎えに来られなくなっちゃったの」

言いながら私はふたりの様子をうかがう。

さくらちゃんは四歳だし、そもそも家政婦さんが入院していることを知っているからわかっていそうだけれど、俊太は違う。

二歳だし、まだよくわからないだろうな。

案の定、

「なんで?」

と言い出す。

入院してる、といってもよくわからないかな。うち帰ったらまた説明しないとな。

「さくらちゃんのおうちの人の代わりにママがさくらちゃんのお迎えするの」

「ママは僕のママだよ?」

そう不安な顔をする俊太と、同じく不安な顔を見せるさくらちゃんを見て心が痛くなる。

難しいよね。

大人の都合は俊太には難しいだろうし。さくらちゃんも不安よね。

私はふたりの頭にそっと手を置いて、

「帰ろう。さくらちゃんのパパ、今日はおうちでお仕事してるって言っていたから」

「うん」

ふたりとも不安な顔のまま頷き、私はふたりの手をぎゅっと握りしめて保育園を後にした。

帰り道、ふたりとも言葉が少なかった。

なんだかふたりとも私の様子をうかがっているような感じがする。

子供なりに空気、読んでいるのかな。

そのことに心が痛くなってくる。

「今日は何があったの?」

そう私が言うと、さくらちゃんが我先に、という感じで喋りはじめた。

「運動会の練習したの!」

「そっかー。今月の終わりだもんね、運動会」

そう私が答えると、さくらちゃんは大きく頷く。

「うん! ダンスとね、玉入れするの!」

目をキラキラさせて桜ちゃんが言った。

私は俊太に目を向けて尋ねた。

「ねえ俊太、今日は何したの?」

すると俊太は下を向いて、首を横に振ってしまう。

これは……緊張なのか、それとも嫌だっていうことなのか。こういう状況は初めてだから私も戸惑ってしまう。

その代わりに、さくらちゃんが話しかけてくる。

「えーとね、しゅんたくんもね、やってるよ! 運動会の練習!」

「そっかー。運動会楽しみだね」

そう私が言うと、さくらちゃんは、黙り込んでしまう。

これはかなり複雑な状況かも知れない。

大丈夫かな。

送り迎えだけだし、と思ったけれど、私、自分の子供とのことまで考えが回っていなかったなと、反省してしまう。

心の中にもやもやを抱えながら東雲さんのマンションに向かって歩いていると、俊太が声を上げた。

「パパ?」

「え?」

驚いて私は視線を巡らせる。

車道の向こう。夫の郁人によく似た人がいた。とても若い女性と一緒に腕を組んで歩いているように見える。

ってなんで? 郁人が行っているジムとは方向違うのに。

ふたりはチェーンのカフェに入っていくようだった。

東雲さんのマンションがある方角は、私たちは普段いかない方向だ。

なんで郁人が女性と歩いてるの?

あの人誰? すごく若く見えたけど……え?

「ママ?」

俊太の声にハッとして、私は首を横に振る。

そして自分に言い聞かせるように言った。

「あれ、パパじゃないよ。よく似た違う人」

そう言いながら私はひきつった笑いを浮かべる。

俊太は首を傾げて、

「そうなの?」

というけれど、私は大きく頷いて、

「そうそう。パパ、ジムに行ってるからね」

と答える。

俊太は納得してないようだけど、頷いて私を見上げて言った。

「おなかすいた」

「そうだね」

「はいはい! さくらもおなかすいた!」

さくらちゃんも手を上げてアピールするので、私は笑って頷いた。

マンションの部屋には、東雲さんがいてさくらちゃんを出迎える。

「あぁ、おかえりなさい」

「ただいま」

すん、という感じでさくらちゃんが言い、東雲さんの横をすり抜けて中に入っていく。そのあとに水が流れる音が聞こえるから、手を洗っているんだろうな。

えらいな、ちゃんと手洗いうがいできるんだな。

東雲さんは私と、私の横に立つ俊太に目を向けたあと、申し訳なさそうに頭を下げた。

「すみません」

「いいえ。あの、帰りにさくらちゃん、お腹すいたって言っていて。おやつ、あげてください」

「はい。えーと、こちらは坂本さんのお子さん、ですか?」

遠慮がちに言われ、私は頷く。

「はい、あの、俊太、です。今二歳で、さくらちゃんと同じ保育園だったから一緒にお迎えになって」

「あぁ、そういう事なんですか。えーと、ちょっと待っていてください」

そう言ったかと思うと、東雲さんは背中を向けて奥へと走っていく。

「なんだろう……」

不思議に思っていると、すぐに戻ってきて、小さなレジ袋を差し出してくる。

「あの、おやつです。よろしければ」

半透明の袋から、よく知っている子供向けのおやつのパッケージが透けて見える。

それを見た俊太は、

「おやつ!」

と、声を上げた。

私は袋を受け取り、

「わざわざすみません」

と、頭を下げる。

すると東雲さんは笑顔で首を横に振り、

「いいえ、あの、突然なのにありがとうございました」

と言いながら、頭を下げた。

「坂本さん、明日もよろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします」

互いに頭を下げ合い、私は東雲さんのマンションを後にした。

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